お寺・神社・博物館・美術館にて【法輪堂の拝観日記】

特別展『源信 地獄・極楽への扉』 レポート【奈良国立博物館】 

1000年忌特別展
源信 地獄・極楽への扉

2017年7月15日(土)~9月3日(日)
奈良国立博物館

『源信 展』といえば、

このような“赤く染まる地獄絵”が強烈に目に残り、地獄絵を観るかのように思ったのですがそこは“源信展”です。地獄絵図で何を説いたのか?“極楽への扉”。扉という言葉が、“極楽”・”地獄”のどちらにもかかっています。

前期の展示で観せて頂きました。

第1章 源信誕生 極楽浄土へのあこがれ
第2章 末法の世と横川での日々
第3章 『往生要集』と六道絵
第4章 来迎と極楽の風景

【展 示】
前期:7月15日~8月6日
後期:8月 8日~9月3日

後期には、地獄草子(国宝)や餓鬼草子(国宝)、山越阿弥陀図(重文、京都・金戒光明寺)や高野山の阿弥陀来迎図(国宝、和歌山・有志八幡講)源信は『往生要集』で極楽往生のノウハウを説き、自らも実践した。「私たちはいかに生き、いかに死ぬべきなのか?」極楽浄土を思い描く人間がひたむきに願うことの大切さを源信は説いた。

「極楽を思いひたむきに生きよう」というのが源信のメッセージ。

恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)(942~1017)。
奈良で生まれ、比叡山で修業を積んだ平安時代の僧侶。
死後、阿弥陀如来の来迎を受けて、極楽浄土へ生まれることを願う浄土信仰を広めた僧。
誰にでも理解しやすい地獄と極楽の世界を描き出した『往生要集』などによって源信が示した具体的な死後の世界のイメージは、後世へも多大な影響を及ぼしました。

地獄絵をふくむ六道絵や阿弥陀来迎図の名品が一堂に会する。

第1章 源信誕生 極楽浄土へのあこがれ

恵心僧都源信は、伝記によれば奈良の当麻で生まれ育ちました。若くして出家。当麻は極楽浄土の姿を織り表した綴れ織り當麻曼荼羅を本尊とする當麻寺があります。浄土信仰の寺であった當麻寺の近隣で生まれ育った源信が僧となり、のちに極楽浄土信仰を広めたことは、生地との由縁を思わせます。

重文【観音菩薩立像】

平安時代(奈良・高雄寺)
源信の母は霊験を讃えられた高雄寺の観音に起請し、夢中に住持僧から一珠を与えられ、久しからずして懐妊したという話が。

【恵心僧都源信像】 

南北朝時代(滋賀・聖衆来迎寺)

第2章 末法の世と横川での日々

源信は十代で天台宗の総本山・比叡山延暦寺に入り、比叡山の横川で慈恵大師良源を師として仏教を学びます。源信と同時代には、聖と呼ばれる大寺院と離れて活動する僧が極楽浄土信仰を広めました(空也など)。源信は43歳の時、天台宗を基礎とした極楽往生の指南書『往生要集』を書き上げます。

重文【慈恵大師坐像】 

鎌倉時代(滋賀・延暦寺)

重文【康保元年十一月勧学会記】

平安時代(東京・総持寺)

重文【霊山院釈迦堂毎日作法】

聖衆来迎寺

重文【空也上人立像】

荘厳寺

国宝【慈恵大師自筆遺告】 

平安時代(京都・廬山寺)

国宝【白毫観法 醍醐寺文書聖教】 

平安時代
京都・醍醐寺
源信が初めて著した念仏理論書。

国宝【文殊菩薩像・普賢菩薩像(釈迦如来立像像内納入品)】 

平安時代
京都・醍醐寺

国宝【往生講式 醍醐寺文書聖教】

南北朝時代
京都・醍醐寺

国宝【一遍聖絵 巻七】

鎌倉時代
東京国立博物館

【二十五三昧式】 室町時代(高野山大学)

【往生要集】 (叡山文庫)

第3章 『往生要集』と六道絵の世界

源信が編纂した『往生要集』は、人間が生前の行いによって輪廻する六つの世界(六道)について、膨大な経典を引用しながら具体的に説明。この本は地獄の恐怖や極楽のすばらしさ、そして人間世界の醜悪さをも具体的に伝えるとともに、よりよい往生の方法(死の迎え方)を指南する書物。この章で六道絵の名品で死後のイマジネーションを。

重文【地蔵菩薩立像】

清凉寺

国宝【地獄草紙】 

平安時代~鎌倉時代
東京国立博物館

国宝【六道絵】 

鎌倉時代
滋賀・聖衆来迎寺

重文【閻魔王坐像】 

鎌倉時代
東大寺

国宝【大般若経 6巻】 

平安時代
中尊寺大長寿院

国宝【正法念処 巻第三十三(紺紙金銀字一切経】 

平安時代
和歌山・金剛峯寺

国宝【地獄草紙】 

平安時代~鎌倉時代
奈良国立博物館

国宝【餓鬼草紙】 

平安時代~鎌倉時代
東京国立博物館

国宝【餓鬼草紙】 

平安時代~鎌倉時代
京都国立博物館

国宝【病草紙】 

平安時代~鎌倉時代
京都国立博物館

国宝【辟邪絵】 

平安時代~鎌倉時代
奈良国立博物館

第3章の感想

印象に残った内容は、
【六道絵】のどんな美人でも死ねば朽ちていき白骨していく、人の身体は不浄なのだというさま“人道不浄相 (にんどうふじょうそう)”。人間も争い続けるさまの“阿修羅道 (あしゅらどう)”。いろいろな説明が地獄・極楽の絵でされています。単なる説明だけでなく“極楽への実践方法”が描かれていたりします。

感動した一番は、
【地蔵菩薩立像】(清凉寺)。像も美しいけれど、納入された「五境の良楽」の“功徳による救済”が願われていることがわかるポイント。そして源信に主著『往生要集』に「五妙境界の楽」が説かれ、“阿弥陀の極楽浄土が五感を快くする要素に満ちている”と述べられている品が納められているのに、願文中に“自分は源信に遠く及ばない”と書かれてあったというポイント。“源信”がどれだけすごいかとも言えるし、どれだけ追ってゆかねばならない幅があることもみえる。“極楽浄土”と“五感”についてすごく興味深く思い、知る機会があることを願います。

第4章 来迎と極楽の風景

六道を輪廻し続ける苦から離れて、死後、極楽浄土へ生まれることが浄土信仰者の希望です。源信はそういう人のために「迎講」を行ったり、阿弥陀来迎図を作らせたといいます。「迎講」は阿弥陀如来や菩薩衆が、極楽往生する者を迎えに現世へやってくる様を演劇的に再現するもの。阿弥陀来迎図も、源信が臨終時の助けとして作らせたのが、記録上、独立した絵画としては最も早い例。このような様式や造形によって、人々が阿弥陀来迎の情景を具体的にイメージすることができるようになりました。浄土信仰のありようは、源信の時代に形を整えたといえます。

重文【二十五菩薩坐像】 

平安時代
京都・即成院

国宝【雲中供養菩薩像】 

平安時代
京都・平等院

重文【菩薩面】 

平安時代
奈良・法隆寺

国宝【阿弥陀聖衆来迎図(早来迎)】 

知恩院

国宝【法然上人絵伝 巻四十五】 

知恩院

重文【當麻曼荼羅(貞享本】 

江戸時代
當麻寺

国宝【阿弥陀三尊及び童子像】 

法華寺

国宝【法華経 巻第一・巻第二(紺紙金銀字一切経)】

平安時代
和歌山・金剛峯寺

国宝【大般若経】

平安時代~鎌倉時代
東京国立博物館

国宝【順正理論】

平安時代
和歌山・金剛峯寺

国宝【阿弥陀聖衆来迎図(早来迎)】

和歌山・有志八幡講

第4章の感想

即成院の二十五菩薩坐像の“普賢菩薩”・“徳蔵菩薩”・“宝蔵菩薩”。「周丈六の阿弥陀如来坐像と等身大の観音・勢至菩薩」と説明があります。即成院の二十五菩薩坐像の天蓋を持たれた普賢菩薩像、阿弥陀如来坐像と“すべて揃われている光景をぜひとも”と想像させる和らげなお姿でした。

比叡山で修業された“源信”ですが、“故郷當麻での経験が浄土信仰の根底になっている”というのも興味深く、當麻曼荼羅(貞享本)の展示もありました。極楽浄土へのお迎えの様子が数種類があり、“たくさん出揃って迎えに来てもらえる場合”と“人数が少ない場合”があるとは…。それでも迎えに来てもらえれば…。と知って複雑な気持ちになりました。そのように丁寧に説明がされているのですね。

特別展のおわりに

展示は、愛媛の保安寺の阿弥陀如来及び観音・勢至菩薩坐像で終わります。ちょっとさみしめに感じる展示ですが、出口へと進む道に左右の壁が“地獄”でグッとなりましたが、見上げると“極楽浄土のタペストリー”が!!

そう、地獄ではなく極楽浄土への扉です。

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