お寺・神社・博物館・美術館にて【法輪堂の拝観日記】

「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」展 レポート【京都国立博物館】

「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」

2019年10月12日(土)~11月24日(日)
京都国立博物館

二巻の絵巻物が37枚に切断された歌仙絵が集結する”という京都国立博物館の特別展『佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』を観てきました。

《佐竹本三十六歌仙絵》全37件のうち、過去最大31件集結!

三十六人の優れた和歌の詠み人「歌仙」を描く、鎌倉時代の名品『佐竹本三十六歌仙』。かつて二巻の絵巻物だったこの作品は、大正8年(1919)に一歌仙ずつに分割され、別々の所有者のもとに秘蔵されました。離れ離れになった断簡31件が一堂に会します。

※三十六歌仙に住吉大明神神図を加え三十七図

実は、なにやら「流転100年」「絵巻切断から100年」と書き添えられていて、観てわかるだろうかと少し心配しながら京都国立博物館に入りました。そんな心配はまったく必要なく、前に進みながらその面白みを浴びるかのような素晴らしい展示方法で美しい絵巻物の世界のような美しい展示でした。

だけに終わらず、この拝観日記をまとめていくと、構成の素晴らしさを気づきました。本題「佐竹本三十六歌仙絵」が第3章に。もうここで大正時代の大事な絵巻が分割されることも大きく展示されます。しかし第6章まである。第3章で大きな山が終ったかのようですが、第1章から第6章まで「佐竹本三十六歌仙絵」の飛鳥時代から江戸時代まで流れるように歴史となっていました。

そして江戸時代の主流な絵師に繋がっている。それほど「佐竹本三十六歌仙絵」は偉大な存在のものであると。実際に観たときも、最後が鈴木其一筆「三十六歌仙図屏風」で締めくくられたのに出会い、はるかかなたの時代のものでなく繋がっていたことを目にしたようで震えた。そんな特別展を拝観日記に残したいと思います。

記念撮影スポット
「重要文化財 佐竹本三十六歌仙絵 坂上是則」

三十六歌仙

歌人・藤原公任の『三十六歌仙』に選ばれた三十六人の優れた歌詠み人。柿本人麻呂や小野小町、在原業平など飛鳥時代から平安時代に活躍した歌人が挙げられています。

三十六歌仙〈上巻〉

柿本人麻呂・凡河内躬恒
大伴家持・在原業平
素性法師・猿丸大夫
藤原兼輔・藤原敦忠
源 公忠・斎宮女御
源 宗于・藤原敏行
藤原清正・藤原興風
坂上是則・小大君

三十六歌仙〈下巻〉

住吉大明神・紀 貫之
伊勢  ・山辺赤人
僧正遍照・紀 友則
小野小町・藤原朝忠
藤原高光・壬生忠峯
大中臣能宣・源 重之
源 信明・源 順
清原元輔・藤原元真
藤原仲文・壬生忠視
中 務

佐竹本

鎌倉時代以降多く描かれるようになった歌仙の肖像を「歌仙絵」といいます。『佐竹本三十六歌仙』は旧秋田藩・佐竹侯爵家に伝わったことから「佐竹本」と呼ばれます。

歌の意味に寄り添って歌仙一人一人の表情や姿勢に微妙な変化を加え、詠んだ人物の心情さえ感じさせる肖像表現が、他の歌仙絵や同時代の肖像画に比べて大きく優れています。その美しさは、一歌仙ごとの断簡になっても損なわれておらず、まさに歌仙絵の最高峰といえます。

図録

図録ですが、じつは
白地に“佐竹本 小野小町”。

その上に、
表具の模様が帯のようにかかっている表紙となっています。

なにの表具か見ていくと、
たぶん“源信明”、“在原業平”、“紀貫之”、“紀貫之”。

図録も佐竹本三十六歌仙絵となっていて
何とも素晴らしい表現。

中も、
歌も、現代訳も、歌仙絵だけでも
表装された全体像でも、しっかり納められています。

音声ガイド

ナビゲーター 瀬戸麻沙美さん

アニメ「ちはやふる」より
音声ガイドスペシャルトラック

綾瀬千早役 瀬戸麻沙美さん
真島太一役 宮野真守さん

特別収録
・「巻物切断」当日の目撃者のお話
・佐竹本三十六歌仙絵「在原業平」の障壁画のお話

今回の音声ガイドは機械が足りなくなり借りるのに待ち時間がかかるということがありました。音声ガイドも人気であったのだと思います。待っても借りて良かったと思ったのは、絵巻から1つ1つの歌仙になり“くじ引き”に関わった方の音声が聞くことができたこと。このことにより、関わった人の心の動きを知り、リアルに“くじ引き”が行われたこととして感じられた上で、鑑賞させて頂けたのは理解に大きく影響したと思います。

第1章 国宝(三十六人家集)と平安の名筆

平安貴族の生活や儀礼を彩った和歌は、仮名文字の発達により、美しい料紙に記された造形美としても鑑賞された。

国宝 三十六人家集 重之集

京都・本願寺
料紙装飾の傑作

三十六歌仙の人物ごとに和歌を記した冊子で、贅を尽くした料紙装飾がページごとにきらびやかな世界を展開します。平安貴族の三十六歌仙への憧れが伝わる名品中の名品。

第2章 “歌聖”柿本人麻呂

柿本人麻呂は『万葉集』時代の伝説的な歌聖である。大事なことは、人麻呂像こそ優れた歌人の姿を描いた先例であり、後の時代に歌仙絵を数多くつくられる展開を導いたと考えられるということである。

重要文化財 柿本人麻呂像

性海霊見賛 詫磨栄賀筆
東京 常盤山文庫

柿本人麻呂像

伝中御門宣秀賛 伝藤原信実筆
京都国立博物館

重要文化財 維摩居士像

京都国立博物館
上から2つの柿本人麻呂の肖像画は、筆・紙を持たず、脇息にもたれかかって画面左方を見る。上から3つめの維摩居士の肖像画の姿勢とは左右反転でよく似ています。

住吉蒔絵硯箱

“住吉明神”は「和歌の神」として崇められてきた。

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第3章 “大歌仙”佐竹本三十六歌仙絵

中近世にかけて数多く制作された歌仙絵の中でも、旧秋田藩主・佐竹侯爵家がかつて所蔵したことから「佐竹本」の名で呼ばれる三十六歌仙絵は、その最高傑作として名高い。もともと上下二巻の絵巻として伝わったこの作品は、大正八年(1919)、一歌仙ずつの断簡に分断されてしまう。

絵巻切断

  1. 大正に入り「佐竹本三十六歌仙絵巻」が売りに出されるが、あまりに高額のため買い手がつかず、海外への流出さえ危ぶまれる。

  2. 経済界の中心人物、増田孝(号・鈍翁)を中心に、絵巻を一歌仙ずつに切断し、共同購入する方針を決定。

  3. 37枚に切断された歌仙絵をそれぞれ誰が購入するのかは、くじ引きで決められる。

益田孝(鈍翁)

「佐竹本三十六歌仙」分割の主導者である益田孝(号・鈍翁)は、旧三井物産を設立し、日本経済新聞の前身、「中外物価信報(中外商業新報)」を創刊するなど、近代日本経済界の重鎮でした。茶人として、また古美術の蒐集家としても名高く、国宝「源氏物語絵巻」(現・五島美術館)をはじめとする名宝を数多く所有していました。

 応挙館

「佐竹本三十六歌仙」分割の舞台となった鈍翁の邸宅。当時は東京・品川区御殿山に所在。「応挙館」という呼称は、円山応挙が描いた障壁画で飾られていることに由来します。

くじ引きが、応挙の障壁画がある邸宅で行われたということでしょうか。

表具

分割された歌仙絵は、それぞれの所有者によって趣向を凝らした表具を施され、掛け軸に仕立てられました。

「佐竹本三十六歌仙 坂上是則」は、鹿の住む雪山を描いた中世の絵画を切り取ったものを用い、歌と肖像が一体となって季節感を演出されています。

「佐竹本三十六歌仙」二巻が納められていた箱
佐竹本断巻式に用いた籤取りの竹筒を一重切花入に仕立て直したもの
表具は、刺繍があったりそれぞれ違いがあったので、とても興味深く観せて頂きました。中でも、雪山の「坂上是則」と、扇の模様で本願寺の能装束を転用したとも伝えられる「紀貫之」。背景が描かれていない肖像の表情だけの歌仙絵と和歌の紙を飛びだした表具で雪山があったのを確認した瞬間、その歌仙絵を大事に活かし楽しむ、その心に豊かさ広さに本当に震えました。扇もその織りの良さは輝いていました。いかにその歌仙絵を大事に想われてのことか伝わってくるようでした。
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別格の「歌聖」

重要文化財 佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麻呂

鎌倉時代 13世紀 
東京・出光美術館

別格の「歌聖」、柿本人麻呂

柿本人麻呂は三十六歌仙に選ばれるより古くから多くの尊敬を集めた別格の歌人です。「人麻呂影供」という歌会も有名です。本図は、男性歌人の中では最も高い値がつけられました。

僧侶

重要文化財 佐竹本三十六歌仙絵 素性法師

鎌倉時代 13世紀

「僧侶」を引き当てたのは?

「佐竹本」分割を主導した益田孝は、くじで僧侶を引き当ててしまいます。一番人気の「斎宮女御」を引き当てた人物がこれを譲ることになりました。

くじで引き当てた人にスポットが当たっていたとなれば、どのような内容のものなのかとても興味があるところ。それが、描かれているのは“僧侶”であるけれど、歌は“女性”の立場から詠まれたものだそうです。和歌は、立場を置き換えて詠む楽しみもされたとのこと。

十二単

重要文化財 佐竹本三十六歌仙絵 小大君

鎌倉時代 13世紀 
奈良・大和文華館

華やかな十二単をまとう女性歌仙には人気も集中し、「斎宮女御」、「小野小町」に次ぐ高額な評価が与えられました。

十二単の女性歌仙の前は、やはり現代でも大人気で熱気がちがいました。

重要文化財 佐竹本三十六歌仙絵 源信明

鎌倉時代 13世紀
京都・泉屋博古館

100年愛され続けた「家宝」

流転を繰り返した佐竹本の各断簡ですが、最初の所有者の家を離れないまま100年の時を過ごしたものもあります。本図は十五代住友吉左衛門友純(号・春翠)が入手したのち、流出することなく今日に伝えられました。

重要文化財 佐竹本三十六歌仙絵 藤原高光

大阪 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館

最初の所有者、その後箕面有馬電鉄(阪急電鉄の前身)の創業に関わり、宝塚歌劇団や東宝映画を設立した小林一三の手に渡り、逸翁美術館所蔵に至る。

小林一三さんのお名前を発見して、佐竹本そして籤引きがより現実に近く想像できるように。そして所有し続けられるということの大変さも知ったのでした。(逸翁美術館蔵の展示物は、第一章の堺色紙「わたつみの」も)

展示は前期後期に分かれており、“小野小町”が観ることができなかったのが惜しいことをしたように思えています。

五衣唐衣装 女房装束(十二単)

ちょうど令和の即位礼正殿の儀での“衣擦れ(きぬずれ)”が記憶に新しく、思い起こしながら見せていただいけるのがタイムリーでした。

第4章 さまざまな歌仙絵

歌仙絵は、佐竹本のほかにも白描のものや彩色のもの、愛らしいものや凛としたものが残されている。本章では、鎌倉・南北朝時代の歌仙絵から代表的なものを紹介。

上畳本三十六歌仙絵

“佐竹本”と“上畳本”。よく似ていて“上畳本”も佐竹本とならぶ歌仙絵の名品とのこと。何がちがうかは、人物が上畳に坐す姿で描かれています。

第5章 鎌倉時代の和歌と美術

鎌倉時代には、『新古今和歌集』から『続後拾遺和歌集』まで、九本もの勅撰和歌集が成立している。さらに、古筆、装飾料紙、物語絵巻など質の高い王朝美術が陸続と生み出されており、歌仙絵もそのひとつであった。

重要文化財 公家列影図

ズラッと束帯姿の公家五十七名の坐像を上下二段に描かれています。一瞬は同じように見えますが、大臣初任の配列となっているようです。

第6章 江戸時代の和歌と美術

室町・桃山時代には、神社に奉納する額に三十六歌仙を描く例が増加する。それらの中には、狩野派など今日に名を残す絵師の作品もみられた。そして江戸時代の三十六歌仙絵は、土佐派、狩野派、琳派といった主要な流派の絵師たちが手掛けるポピュラーな画題でありつづけた。その基底にはいつでも、華やかな王朝文化と三十六歌仙への憧憬があったのである。

三十六歌仙図屏風 鈴木其一筆

酒井抱一の弟子の鈴木其一。
三十六歌仙をひとつの画面中に群像として描く。

色鮮やかで華やかでした。“さすが琳派”という感じで最後に締めくくりに感動したのですが、それだけ「佐竹本三十六歌仙絵」のものが引き継がれてきているということ。佐竹本の存在の大きさを思い知ったのでした。巻物切断という決断も大きなことですが、このことにより日本に「佐竹本三十六歌仙絵」が残っていてくれることになった。これからもどのように引き継がれてゆくのでしょうか。

京都国立博物館の概要と年間の主だった展示企画、イベント等をお伝えしています。…

2020年4月からの特別展は

西国三十三所 草創1300年記念 特別展
『聖地をたずねて─西国三十三所の信仰と至宝─』

2020年4月11日(土)~ 5月31日(日)
京都国立博物館 平成知新館

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