お寺・神社・博物館・美術館にて【法輪堂の拝観日記】

ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展

「ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展」
に行ってきました。

ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展

ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展

開催期間 : 2009年1月6日~3月29日


〔国立信美術館〕
2008年 7月 2日~ 9月15日

〔宮城県美術館〕
2008年10月 7日~12月14日

〔兵庫県立美術館〕
2009年 1月 6日~ 3月29日

〔青森県立美術館〕
2009年 4月11日~ 6月14日

ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展

ヨーロッパ絵画では、花・食べ物・食器や楽器などは
もともとは脇役として描かれてきました。

やがて、「静物画」という独立したジャンルが生まれました。

ウィーン美術史美術館の大コレクションから75点について、
静物画の展開をたどりながら、その秘密に触れる展覧会です。

ウィーン美術史美術館の誇る
ベラスケス「マルガリータ」が特別に出展されます。

「静物画の秘密展」の展示作品から6点が
絵メールで展覧会場の外の備え付けのパソコンから
自宅・携帯電話やお友達に送信出来ます。

兵庫県立美術館の「マルガリータの日記」blogでも
写真などを含み講演会報告などの情報などが発信されています。

■「静物画の秘密展」の「マルガリータの日記」blog ≫

静物画とは

静止している、たいていは小さめの事物、植物や身動きしない生物などが
入念に考え抜かれた組み合わせや配置で描かれたもの。

第一義的には形態的、絵画的観点によるものですが
同時にその内容に何か深いものが込められていることも
ありうるような絵画の総称です。

静物画の秘密展の構成

第1章 市場・台所・虚栄の静物
Ⅰ 市場と台所の静物画
Ⅱ 自然描写と美術品陳列室画
Ⅲ ヴァニタスの静物画

豊穣なものが実は、虚栄のはかなさを内包し、
避けがたい死をも暗示することになるのである。

第2章 狩猟・果実・豪華な品々・花の静物
Ⅳ 狩猟の静物画
Ⅴ 食卓の静物画
Ⅵ 果物と豪華な静物画
Ⅶ 花の静物画

貴族や富裕階級の恵まれた生活を誇示するもの

この種の静物画を所有することは、
ある意味では所有者の富裕化・貴族化の証とみなされた。

第3章 宗教・季節・自然の静物
Ⅷ 宗教的静物画
Ⅸ 季節、四大元素、その他の萬意

自然界の謎深い現象の秘密を解明したいと
万物の根源をなす四大要素(土・空気・火・水)の表現を、

季節の表現やそれを司る神々の像と結びつけられ
宗教的な特別な意味の役割となる。

第4章 風俗・肖像と静物
Ⅹ 風俗画
Ⅺ 肖像画と静物画、アトリビュートとしての静物

神々の像や人物像に書き添えられる生物は、
表象の意味するところを正確に解釈することが、

肖像主の秘められた性格を知ることの重要な鍵となる。

ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展

1番印象に残った作品

〔御公現の萬意〕  ヤン・アントン・ファン・デル・バーレン

絵画の真ん中前方にドーンと、赤いクロスの掛けられたテーブルの上に
東方三博士が生まれたての神の子に捧げる供物が
輝くゴールド色などに描かれています。

この赤・輝くゴールド・黒の色合わせと大きさに目が奪われ
鑑賞が終わりそうになります。

確かに、後方右側に建物がある背景として目には入っていますが
その建物のアーチ型の下にこの絵に重要な
誕生した救世主と聖家族が描かれていることには

音声ガイドがなければ気がつかずに通り過ぎていたかもしれないほど
小さい構図となっています。

図録に「品々が貴重なものであることと、
それらの本来の所有者が誰であるべきかを
理解することができる鑑賞者の知識に訴えているのである。」
と書かれています。

作者の潔さに感動し、
「これが真の静物画というものかもしれない。」と感じ
静物画の深さに心惹かれました。

ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展

印象に残った作品

〔青い花瓶の花束〕  ヤン・ブリューゲル(父)

花瓶に生けられたたくさんの花々。
この花の組み合わせは、開花時期が異なる季節なので
現実には見ることができないのだそうです。

そんな多種の花々が重なり華やかな絵画に見えますが
花瓶を置かれた机の上には、こぼれおちた花やテントウムシが
描かれています。

綺麗な華やかな姿に目を奪われた後に
ふと机の上の存在に気が付くと何とも哀しいような気分になりました。

〔鸚鵡貝の高杯と生姜壺のある静物〕  ユリアーン・ファン・ストレーク

高価な器や食物の組み合わせの絵画の中に、
アジアの人物が描かれた陶器の生姜壺が登場しており
保存処理した生姜がオランダに輸出されていたと
書簡に報告されているとあり

他の絵画では、18世紀まで広く流布していた大衆医学「体液医学」で
4種類の体液(血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁)を調節するために
勧められたレモン・牡蠣・胡椒の組み合わせの食卓絵がありました。

西洋の絵画が続く中、装飾のみならず
食の中にも東洋との交流があったことが新鮮に映りました。

〔貴婦人の肖像〕  ティベリオ・ティネッリに帰属

「肖像画で、何が静物か」と探しながら見ると、
貴婦人の服装の描写の素晴らしさに目を奪われました。

首・型周りのレースの模様と服全体の模様と光り方。
写真を見ているかのようでした。

花瓶を置かれた台の上に一緒に置かれているのは、
砂時計ではないでしょうか?

制作した画家・制作時期に関して様々な説があるといいます。
砂時計の存在がこの貴婦人の何を物語るのかが
たいへん気になるところです。

薔薇色の衣裳のマルガリータ王女

ディエゴ・ロドリゲス・シルバ・イ・ベラスゲス

ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展

ベラスゲスは、スペイン国王フェリペ4世の宮廷画家。
マルガリータ・テレサの肖像画は、皇帝レオポルト1世との婚姻が
定められていたので、その成長を見せるために描かれたといいます。

マルガリータ・テレサの3歳の肖像画で、大変愛らしいです。
つい間近に近づいて見てしましますが、この絵画は近くで見ると
「ぼわん」とほやけた模様のように描かれていますので
少し遠目で見る方がきれいに見えます。

素晴らしいのは、愛らしさは勿論ですが
絵全体で使われた色が花瓶に生けられた花の色にあるというのです。

静物画の秘密展の感想

「静物画」と聞くと、机の上に置かれた果物の山であったり
のアレジメントなどという、単なる美しい絵画とイメージしていました。

今回の展示の名は、「静物画」ではなく
ポイントは「秘密」にあります。

数年前の「プラド美術館展」で、
喪服姿の「皇妃マルガリータ・デ・アイストリア」は
背後の部屋の小卓の上に時計が置かれていました。

その時に「静物」を存在させることで、
そのままを描いただけの美しい絵画ではなく
意味することを物語らせた表現があると知ったのですが、
今回は静物画の綺麗だけではない物語る部分を
じっくり見せて頂けました。

花、果物、金銀その他貴金属・宝石類、楽器
木、石、死んだ魚、狩の獲物となった死んだ動物・・・

「ものの見かけの美しさは、
常にそのうつろいやすさや
はかなさと結びつけられる」 と。

<本物と見紛うばかりの描写によるイリュージョンが
精緻であればあるほど、仮象と実在という対立概念から
道徳がより強く心に迫ってくる。あらゆる静物画は必然的に
ヴァニタス(vanitas 虚栄、この世のはかなさの寓意)
でもあるのだ>(Gombrich 1978)

観覧者が作者の意図に気がつかなければ
「綺麗な絵画だったね。」と終わったしまうかもしれない。
意図に少し気がついても、本当の意味を解読出来るか
不明である場合もあるかもしれない。

今回の展示に「騙し絵」の言葉も登場しましたが、
肖像画にもある種の騙し絵の要素があると考えられるのかもしれません。

静物画の秘密展についてこのブログにまとめながらも、
気がつくと精密に描かれた静物に注目していたり
大きく描かれた人物などに気をとられてしまったり、
かと思うと逆に、描かれた秘密の部分に注目していると
深く嵌ってしまい時間が経つということもたびたびありました。

静物画の画家達の意図する深さと潔さ表現に、
まだ何か意図が隠されてはいないかと気になります。

ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展
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