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京都宮殿師工房訪問記

宮殿(くうでん)とは?

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◇━━━━━◆ 「宮殿(くうでん)」とは ◆━━━━━━◇

 諸仏諸尊、開祖・宗祖などを祀るための厨子の一種で、
 屋根と柱で構成され、厨子と異なり扉が付きません。

 宮殿の大半は須弥壇の上に置かれますが
 その様子は、あたかも須弥山頂にある天宮といった形となります。

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 現在、法輪堂ドットコムが依頼している阿弥陀如来仏像の
 後方の衝立の製作をいただいています。
 (宮殿師さんに直接お仕事をして頂くという特別なお仏像です。)

 宮殿師の方は、主に寺院の宮殿を専門に製作されています。
 全国から依頼があり、この日も九州方面に収める 寺院の宮殿の製作途中のものもありました。

● 宮殿製作の見通しを立てる技術──────────────────

 最近は、本堂の宮殿よりもお寺の会館などで仏様を安置する為の宮殿の依頼が多いとのこと。
 したがって本堂サイズよりも一つ小さめのサイズの宮殿の製作となります。
 すでにほとんどのお寺では、本堂の宮殿はすでにあり、
 本堂サイズのものは修復修理(元のものを生かす)のパターンが多いそうです。

 宮殿の製作は擬宝珠から柱、屋根とすべてのパーツを一人の職人が作り上げます。

 つまり木材加工の技術のエキスパートであることを要求されます。
 のこぎり、のみ、かんな etc…を用いて木材を切り取り、削るといった
 加工技術を 屈指しながら仕上げていくのです。

 完成には本堂脇の会館サイズのもので現在では、平均約2カ月ほどかかるといいます。
 (季節により、木材の収縮などの変化があり納期が変わることもあります。)
 だいたい寺院会館の建物を作るのに一年~一年半ほどかかるということを考えて
 製作日数と照らし合わせて仕上がり目標を考えるそうです。

 宮殿の製作では、ほとんど現地へ赴き収める場所を確認して
 宮殿のかたちや大きさを考えられるそうです。

 特に気をつけられることは、宮殿の後方部分のかたちや大きさであるとお聞きしました。
 ここが一番気を使うポイントです。

 最後にぴったり正しい場所に収まるかどうかが決まる「最重要点」だと強くおっしゃってました。

● 素材を知りつくす──────────────────

 使用する木材は、松や桧がほとんどです。
 勿論良い材料にはこだわるが、 木材の種類よりも木材そのものの
 性質を知りつくした上での作業が要求される ―
 それは、木材は、木材の収縮などの変化があるために、
 季節による温度変化によって作業の仕方が違ってくるのです。

 ここの把握ができないと、組上げ段階で各部材が木材の収縮によりずれが生じ
 はめ込みが出来ないなどの問題がおこります。
 良いものをつくるには十分な納期が必要な理由は、ここにあります。

● 美しい造形を作りだす背景──────────────────

 宮殿の美しさの一つに屋根の曲線があります。
 屋根の各部曲線は型があり、基本的にはその型を元にして
 屋根の曲線部分をつくり微調整をしながら作業を進めていきます。
 この微調整により最終的にぴったりと合わせていくのが
 職人の腕の見せどころであると感じました。

 拝見させていただいた「型」には、
 木と紙のものがあり特に紙のものは何十年も使っているということ。
 色が黒っぽいので、「油をしみこませているのか」と思いお聞きしてみると、
 なんと渋柿の汁をし見込ませているとのことでした。
 これで何十年もへたることなく使用されているということでした。
 こういった所からも「京の宮殿師の深み」が感じられました。

● 職人間にある阿吽のコミュニケーション──────────────────

 京の仏具は、基本的に分業です。

 各工程に職人がいて、
 それぞれのエキスパートが良い仕事をしたものを順番に回していく
 というスタイルです。

 このスタイルが京の職人の技術の高さを生み出していると思います。
 「それぞれのパートでベストの仕事をする。」
 これが京の職人が行うモノづくりの真骨頂ではないだろうか。と思います。

 この分業制が生み出す産物に職人の世界には、
 一見必要ないかと思われる独特の人と人とのコミュニケーション能力がありました。
 具体的に次のような工程のお話をお聞きしているときに感じました。

 最終工程組み上げには、基本的に釘は使っていません。
 それは、ある程度ばらして、次にバトンタッチする塗りを行う 塗師が
 作業をしやすいようにということからです。

 また、部品と部品との組み合わせ部分は
 ある程度見た目にも隙間(あそび)が大きめにとります。
 それは、次の工程である下地、漆塗りの工程で
 厚みが生じるために 必要なあそびだということです。

 特に本漆は、他の塗料よりも塗ると厚みをもちます。
 それを計算しないと、 塗り終わり乾いた後、組み合わせ部分がはまらなくなり、
 組み上げが出来ない事態になります。 その厚みの大きささえわかっていれば、
 技術さえあれば容易な感じを受けるかもしれませんが、
 この次にお聞きした内容でそんな簡単なものではないことが分かりました。

 漆を塗る塗師は、一人ではありません。
 それに加えて、それぞれ塗り方にくせがあり、 漆の厚みも微妙に違ってくるそうです。
 ということは、次にどこの塗師に仕事が移っていくのかを知らないと
 問題が生じる可能性が出てきます。
 また、依頼者によって特定の塗師を指定する場合もあります。
 そんな場合にも、その塗師を知らなければ仕事がしにくく または、できないということです。
 ある意味、これは京の職人では無い我々その他一般人に無くなってきている
 コミュニケーション能力であると思います。

 自分の仕事だけで完結して終わりというのではなく、
 次の工程の職人のことを考えるという他者への思いやりのようなものを感じます。
 私的な思いかもしれませんが、人に対する思いという心が
 素晴らしい技法や技術にプラスされているのが 京の職人が作り上げるものではないかと感じます。

● 最後に──────────────────

 宮殿師の方は、昔ながらの職人のたたずまいをされていました。
 ご自身では、あまりしゃべるのが得意ではないとご謙遜されていましたが
 お話をお聞きするに、やさしく丁寧なご説明で何もかもが非常に分かりやすかったです。

 宮殿師のお仕事のつながりやその背景が自然な形で理解できました。
 本当に感謝です。

 工房に広がる木材の清々しい香りの中で 宮殿師の方のやさしい語り口が心地よく印象的でした。
 ありがとうございました。

※ 見学させて頂いた工房名・所在地・お名前などについて
お答えは出来ません。

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